第十章「新米館主、後輩を得る」⑫
煙霧の夜。
さて、なんとか「第十章」を完成させたい一念。
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第十章「新米館主、後輩を得る」⑫
(最初から読んでみたいと思ってくださった方は、
「新米館主・御仮屋睦」の目次ーFC2小説
を是非に。m(__)m
「こんにちは」
意外にも、笑顔で睦に挨拶をしてきた。一昨日はよく顔を見る機会がなかった
が、きちんとお化粧をしていて、高校生の子がいる女性には見えない。
「こんにちは。一昨日は、余計なことをしてしまって・・・・」
相手の真意がわからず、睦は出来るだけ無難なよう応じた。
「あらあら・・・。本当は、私がきちんと御礼を言わなければならないところ
を、娘の祝子が代わりに言ってくれたようね。
ううん、今日は、そのことじゃないの。
あなた、昨日、祝子と会ったわね?」
柔和な笑顔はそのままだが、単刀直入、訊いてきた。
「はい。・・・娘さんが、改めて御礼を言いに来てくれたもので・・・」
なんとか「祝子ちゃん」と親しく呼びそうになったのを抑えて、答えた。
「あ~ら、“会った”どころではないでしょ?二人でかなりおしゃべりした
んじゃない?」
「それは・・・・」
睦が返答に窮したところへ、横から
「ちょっと・・・・」
と、声がかかった。先輩の小雪だ。茜も、こちらを心配そうに見ている。
「御仮屋さん、お話があるようだから、遠慮なく応接コーナーを使わせて
もらいなさい」
新人職員の睦が応接コーナーなぞ使えば、上司からどんなイヤミを言われるか
分かったものではないが、ここは、その方がよいだろう。
「すみません、米櫃(こめびつ)さん、どうぞ、あちらに・・」
「わかったわ。あなたも、仕事中だものね」
ここはあっさりと、祝子の母も従ってくれる。
睦が席を離れようとした瞬間、さっと小雪が睦の肩を押さえた。そして小声で
「お茶は出せないけど。大丈夫?後で、話し、聞いていい?」
と、訊いてきてくれた。
「はい。大丈夫です」
短く答えて、睦は席を立った。
「私も、仕事中にちょっと寄り道したの。だから、手短に話しましょう」
祝子の母は、さっと宣した。
「私が、女手ひとつで育ててきた娘ですもの。娘のことなんて、すべてお見通
しなのよ。昨日家に帰ってみたら、娘の様子が変なのよ。ウキウキしているの。
そのくせ『学校から帰ったら、疲れていて、つい眠ってしまった』なんて、見え透
いたウソを言うのよ。
ははは~~ん、内緒で誰かに会ったな・・・って」
「それで、私ですか?」
「そう、あなた。一昨日、あなたを見送る祝子の目って、特別だったもの。
御仮屋さん、お互い忙しいでしょ。ウソは言わないで。
昨日、祝子に会ったでしょ?」
睦は、畳み込まれるように攻められてしまった。
(つづく)
結局、この章、まだ続きます・・・・・・
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