第五章「御仮屋書店にて」③
雲が低い夜。
さ~て、また長い一週間が始まります・・・。
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第五章「御仮屋書店にて」③
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“本屋の店員”らしく、ジーパンに着古したブラウス姿の睦は、袖をまくり
あげた。そして、ハタキを片手に、雑巾を腰のポケットに入れて、脚立に上っ
た。睦が小柄なように、御仮屋家の面々は総じて小柄だ。最上段の在庫にまで、
なかなか手が届かない。睦は「えいっ!」と気合を入れて背を伸ばして、本を
抜き出し、まずハタキと雑巾でホコリを払っていった。
ふと手にした本の題名は『原発はあぶない』『やっぱり原発はあぶない』。
睦が中学生の頃、原発の安全管理体制に警告をならす、として発売され、かなり
売れた本だ。もっともデータの使い方が恣意的すぎる等厳しい反論もなされた。
そして、数年前には古本屋の店頭で一冊百円で並んでいたのを、睦は目にした
記憶がある。ところが、日本は東日本大震災を経験してしまった。
(ふ~~ん、平積みにして並べてみれば、売れるかしら・・・。そうだ、
他の原発、防災関連の本を集めて、コーナーを作ってみたらどう?・・・)
そんなこんなで、作業自体はあまり進んでいない。
開け放たれた入り口から店内に入ってくる光が、ふいにさえぎられた。
睦はさっと入り口の方に振り向いて、
「いらっしゃいませ」
と声をかけた。
身長は百八十センチは優に超えているだろう。
(その出で立ちは、バスケ部の部活帰りかな?)
睦に声をかけられたその男子高校生は、とっさに会釈を返したものの、
しばらくためらうように入り口で立ち止まっていた。やがて意を決した
ように、睦のそばへツカツカと歩いてきた。
「あの~・・・」
「はい、なんでしょう?」
脚立の上の睦は、男の子の方に向きを変えた。
(つづく)
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