第八章「新米館主、お見合いする?」⑱
(おっ、きれいな夕焼け!)
と思っているときにかぎって、お客さんは多く・・・。
刻々と変わる空の色合いを横目に。
ようやく、ひとっ走り、外へ出ることが出来ました。
日中、嫌な夢を見てしまい・・・。
さ、嫌な夢を見てしまった不快感を、吹き飛ばすためにも。
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第八章「新米館主、お見合いする?」⑱
(最初から読んでみたいと思ってくださった方は、
「新米館主・御仮屋睦」の目次ーFC2小説
を是非に。m(__)m)
慎三郎は、鹿児島に伝わる「示現流」ではなく、あくまで我流というつもり
なのだろう。木刀を振り下ろすだけでなく、横に薙ぎ払う、あるいは振り下ろ
した木刀を、ブン!と下から振り上げる動作を披露してくれる。
そのたびに、木刀が空を斬る音が、ブン!と響く。
「こりゃあ、もう『野太刀(のだち)』じゃの」
じいさんが、つぶやく。
やがて、かなりの汗が噴出し始めた慎三郎が、一礼して、素振りを終えた。
睦がすかさず拍手をする。周囲の者も、後に続いてくれた。
「やっぱり、昼の太陽が出ている時にすると、汗が出てくるのも早い」
慎三郎が、感想をもらす。その表情は、かなり満足そうだ。
「ねえ、慎三郎さん、今日は私たちの“お見合い”よね。ここは、私たち
らしく、お手合わせ、しない?」
睦は、提案した。
「お手合わせ、って・・?」
「立ち合いよ。私と試合しない?」
慎三郎は、ぎょっとしたのだろう、睦の顔をまじまじと見つめ返してきた。
「怖くないのか・・・・」
「ははっ。まさか、まさか。そんな木刀を相手にしたら、私なんて、一発
で地面にめりこんじゃうわ」
睦は、後ろを振り向いた。
「聡くん、ごめん。道場の中へ行って、その棒と同じ長さだけれど、ひと回り
細い棒と、竹刀、持ってきてくれない?」
高校生のボーイフレンド・坂道に頼んだ。
「ここ、古武道の道場だから、各種武具、取り揃えてございま~す、ってね」
やがて、ひと回り細い棒と竹刀が、睦の手元に届いた。
「どう?、これなら、怖くないでしょ」
睦は、竹刀を慎三郎に差し出した。
(つづく)
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