第十章「新米館主、後輩を得る」④
実は!、今週は講談社におかれましては、
『桜庭ななみ、ウィーク』であるようで。
日本で一番売れている雑誌(一応、?)「少年マガジン」にご登場。
「書く」には、“時の勢い”が必要なもので。
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第十章「新米館主、後輩を得る」④
(最初から読んでみたいと思ってくださった方は、
「新米館主・御仮屋睦」の目次ーFC2小説
を是非に。m(__)m
男は、息を整えようとしているのだろうか。しばらく、地面にうつぶせの状態
のまま、動かずにいた。だが、やがて、何物かを求めて、腕を動かし始めた。
(・・・あっ、眼鏡を探しているんだ・・・)
察した睦が、地面に落ちていた眼鏡を拾い上げた。恐らく、睦が男を地面に押し
倒した時に、外れて落ちたのだろう。
「はい。・・・たぶん、壊れていない、と思う・・・」
眼鏡を手渡す睦に、
「あっ・・・、ありがとう・・・」
意外なことに、御礼の言葉が返ってきた。
男は、なおも息を整えていたのだろう、眼鏡を掛けてからも、しばらく黙って
いた。
「・・・・・。ありがとう。アンタみたいな、若い女の子に止めてもらったこと、
やっぱり感謝しなければならないんだろうな・・・・。袋叩きにされなかっただけ、
オレは、幸運だったんだろう・・・・」
改めて、礼を言われてしまった。
四方八方からの「なにごと!」と様子を伺う視線が、「あ~っ、一件落着なんだ~」
とでも言うように、一斉に消えた。気がつけば、“一方の当事者”であるはずの、
母娘が住んでいる一室のドアは、閉められている。
男は立ち上がった。
「アンタのお尻の感触、楽しませてもらった・・。だけれども、そこの家族には、
関わらないほうがいい・・・・」
と、負け惜しみのように言うと、ヨロヨロと歩き出した。
植え込みの陰に隠すように置いてあった自転車を引きずり出すと、それに跨って
去って行った。
(ストーカー?)
たぶん、そうなのだろう。
ところが、アパートの一室のドアは閉じられたままだ。
(もう!、人がせっかく!!)
と愚痴りたくなるところだが、タダモトの手前だ。
「タダモト、ありがと。こういう“痴話ゲンカ”の仲裁って、感謝されないのが、
人間の世界なの。
いいよ。楽しいこと、考えよ。ね、合コン実行委員長サマ」
タダモトに話しかけながら、その場を去ることにした。
ところが、去ろうとした時、
「待ってください!」
一室のドアが開いた。
「あっ、あの~~~。ありがとうございました!」
飛び出してきたのは、娘の方だ。
(わっ!。美少女~っ!)
睦が、つい思ってしまった相手は、紫尾中央高校の制服に身を包んでいる。
「あっ、あっ・・・・、ごめんなさい!。
私、米櫃祝子(こめびつ・いわいこ)って、いいます。
あなたのお名前は・・・・・」
「・・・あっ、私、御仮屋睦。商店街の『御仮屋書店』の娘ね」
「あ、ありがとうございますっ!」
と、改めて頭を下げられたところで、ドアの奥の方から、
「祝子、戻ってきなさいっ!」
どうやら母親の方が、登場してきそうだ。
とっさに睦は、
「じゃあね。
いつでも、御仮屋書店に遊びに来てね」
さっと、タダモトとその場を去った。
(つづく)
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