第九章「ひきこもり剣士」④
「休みの日」の夜は、早々と明け。
いえ、実のところ「あれ?まだ、空が明るくなり始めない・・・」
と、やっぱり季節の移り変わりを感じ。
さ、今週も長い一週間が始まります。
気合。
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第九章「ひきこもり剣士」④
(最初から読んでみたいと思ってくださった方は、
「新米館主・御仮屋睦」の目次ーFC2小説
を是非に。m(__)m
「慎三郎さんは、大学では何を勉強したの?」
「あっ、初めてオレに質問してくれたね。・・・・あっ、またまた、ごめん。
オレ、“アンタ”なんて呼び方してたな・・・。ホント、久しぶりに女の子と
話をしてるんで、調子狂ってる・・・・。うん、睦さん・・・・」
「いい。全然気にしてないから」
「ありがとう。・・・・ところで、質問の答えなんだけれど、睦さん、聞いた
ら、ゼッタイ『あっ、だから、ひきこもりなんだ~』って、笑うと思う・・・・」
「わかった。笑わないよう、努力してみる」
「そう?、・・・・・そうかな・・・・」
慎三郎は、また空を見上げて、目をショボショボとさせた。
「・・・・哲学」
小さな声だったので、睦は聞き漏らした。
「えっ?」
「だから・・・・・。philosophy(哲学)さ」
(あっ、な~るほど)
と思ったが、ここは本当に笑わないよう努力してあげよう。
「For there was never yet philosopher,
That could endure the toothache patiently,
(虫歯の痛みを辛抱できる哲学者はおりませんでしたから)
But,I can endure laughing.
(私は、笑うのは我慢してあげる)」
「Thank you.
ふ~~ん、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』か・・・・」
「あ、わかるんだ?」
「もちろん。・・・・・ふ~~ん、睦さんのような女の子が、シェイクスピア
か・・・・」
「あっ。それって、慎三郎さんこそ、私のこと、バカだと思っているでしょ?」
「あっ、いや・・・・、全然そうじゃなくて。英語が好きだからって、シェイク
スピアの台詞を暗記しているって、すごいな~~って、率直に思った」
「そうかな。じいさん・・・・、って、さっき審判をしてくれたオジイサンのこと
なんだけど・・・・・。機嫌がいいときなんて、よくシェイクスピアの一人芝居を
してくれるの」
「そうなんだ、へ~~・・・。じいさん・・・、イヤ、新納さんだっけ。話して
みたいな・・・・」
「そうよ。話し相手になってあげて。いつもは、このタダモトが、おしゃべり相手
なんだから」
と、睦はタダモトの頭を撫でてあげた。
「ふ~~ん。シェイクスピアを聴く犬か・・・。そりゃあ、利巧になるよな・・・」
感心したように、慎三郎がタダモトを見下ろしてくれる。
二人と一匹は、武家屋敷街の散策コースのはずれに設けられた小さな公園の前にさし
かかった。観光客が休憩できるようにと、武家屋敷街をイメージしたトイレ・東屋が設
けられているが、ここまでやってくる観光客は少ない。
「あっ、ごめんなさい。ちょっと休憩させて。ううん、私じゃなくて、タダモトね。
犬って、元来は夜行性だから。いつもは、こんな真昼間に散歩には連れ出さないのよ」
「そうか。犬って、人間より暑がりらしいよな。タダモトくん、お姫様のボディガー
ドも、大変だよな~」
慎三郎としては、タダモトへの親しみをこめて、そう言ったのだろうが、当のタダモト
は、フン!というように、そっぽを向いた。
(つづく)
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