第1章「新納流試心館」④
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第1章「新納流試心館」④
重心は後ろ足に残しながら、歩を進める。
「かくれんぼ」には、「罠」もありだ。何気なく板に蝋(ろう)が塗られていて、
いきなりツルッと滑らされるかもしれない。逆に、ノリがベタッと足を捉えるかも
しれない。はてまた不意打ちに、後ろから吹き矢が飛んでくるかもしれない。
慎重に。
まずは「隠居の間」を調べよう。「隠居の間」とは、家督を子供に譲った立場の
者が寝起きしていた一室だ。今の家主は、ここだけは現代風に改装して居間として
使っている。
開き戸を、わざと乱暴に開け放つ。
ガッチャ~~ン、ガラン、ガラン、ガラ、ガラ、ガ・・、コ~ン
(これは予想したとおりよ)
金たらいが上から落ちてきた。一瞬破れた静寂のスキをついて、相手が動くか
もしれない。屋内の空気のゆらめきを、読み取ろうとしてみる。
(動きはナシ、かしら)
居間の中をとりあえず調べる。
机の上のパソコンは、水着姿の女性が魅惑的なポーズをしている姿を映している。
(じいさん、これも、立派なセクハラになるんじゃないかな・・)
居間を出て、再び道場に出る。「隠居の間」とは反対側の引き戸に、今度は手を
かける。引き戸の向こうは、ほぼ昔ながらの武家屋敷のつくりを保っている空間だ。
まずは、廊下。雨の日でも弓矢の練習ができるように作られた、と説明されている。
そしてご丁寧に「鴬張り(うぐいすばり)」だ。
睦が一歩踏み込むと、几帳面に床がキュッと鳴く。
(相手には、この手は通用しないんだろうけど)
廊下で、わざと三歩進んで二歩下がるという動きをして、わざと床を鳴かして
みる。どこかで息を潜めている相手を幻惑させるつもりだ。
まずは、表の「応接の間」への障子に手をかける。開けたすき間から、部屋の中を
伺う。庭に面する「応接の間」は、障子が開け放たれ、薄暗さに慣れた目には、明る
く映る。
ところがだ。睦は、かすかに人の気配を感じるように思える。
(ここかしら)
障子を、さらに開ける。見える範囲には、人の気配はない。
今度は素早く動く。一気に部屋の中央まで進む。
(あっ、やっぱり!)
黒い影が上からさっと降りてきて、睦の後ろをとる。睦は動く間すらなく、
後ろから抱きすくめられてしまった。
「ユー・ギブ・アップ?(降参する?)」
ニヤリと黒い影が、睦に訊いてくる。
(つづく)
今日は、ここまで・・・・デス。
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