第1章「新納流試心館」⑤
もはや夕方ではない! の、午後4時30分。
勢いに乗って、(つづき)を。
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第1章「新納流試心館」⑤
「Don't touch me!(触るな)」
睦は、まず反撃として、相手の足の甲めがけて、踵(かかと)を踏み
落とす。
「NO effect(効かないな~)」
(チクショ~、土足のまま来ればよかった・・)
次は、自分の後頭部を相手の顎(あご)めがけて、打ち付ける。
「Good smell(いい香りじゃ)」
相手は、ひょいひょいと顎を動かして、睦の反撃をかわしてしまう。
(ならば・・・)
睦は、じたばた暴れるふりをしながら、縁側へ相手も引きずりながら、
出た。
「これなら、どう!?」
睦は相手の腕をつかんで、エイッとばかりに庭の地面めがけて跳ねた。
(さすがに、私と一緒に地面に叩きつけられるわけには、いかないわよね)
地面まで、もちろん一秒の間もない。
読み通り、その空中に浮かんでいるわずかな瞬間、相手はさっと睦の
身体から離れた。自分も、少しでも態勢を立て直して、着地に備えよう
としたが、
(イタッ~!!)
胸から地面に落ちてしまった。それでも構わず、素早く起き上がって、
構えをとる。
「カッカッカッカッ~。むっちゃん。おっぱいがバウンドするところ、
しっかり目に焼き付かせてもらったわい。」
女性としても小柄な方に入る睦と、背丈はさして変わらない。年齢不詳。
この老人こそ、新納流試心館(にいろりゅうししんかん)館主・新納義彰
(にいろよしあき)だ。
義彰の“セクハラ発言”に一々目くじらを立てていたら、一日は終わっ
てしまう。
「じいさん、天井に張り付いていたとは、私の不覚。まだ、そんな腕力
があったんだね。」
「カカカッ~。わしは、すでに数百年を生きた仙人じゃからの・・・。
ああ、タイトスカート姿のお嬢様に、かようなことをさせて、すまん
かったのう。その胸のあたりについた土は、ワシがはたき落としてやろう。」
「いい、自分でする。」
二人は、構えを解いた。なぜとはなしに、睦も顔がほころぶ。
「どうじゃ、むっちゃん。ちょっとワシの“だいやめ(薩摩地方の方言:
晩酌の意)”に付き合ってくれんかのう。あんたの父さんには、ワシから
電話しておく。むっちゃんには、梅酒を馳走しよう。」
鶴亀信用金庫新米職員・御仮屋睦としては、一瞬資格試験のためのテキスト
が頭をよぎったが、今夜ぐらいは、まあいいか。
「わ~~い、梅酒か。久しぶりにいっただきま~す。」
義彰手製の梅酒だ。実のところ睦、未成年の頃からの好物なのだ。
(つづく)
とりあえず、今日はここまで、デス。
芥川賞受賞作品が掲載されている『文藝春秋』、手にしてみなければ。
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