第四章「新米館主、初仕事」①
ファザード看板の照明を消して営業中。
・・・・って、お昼過ぎに両親に電話しようとしたところ、
呼び出し音のみ。
オイオイ、おやじ!おふくろ!~。
頼むからあまり外出しないで、家でじっとしていてくれ~~。
「食べ物」を求めて、ヨタヨタ街を彷徨う姿が思い浮かんでしまい・・・。
う~~~ん、自分が両親の手足代わりになるために、いったん帰省すべき
なのかな・・・・・・。
でもね・・・、たぶん“様子見”のつもりで帰ったら、もう出水には
戻ってこれないんじゃないだろうか・・・・。
以下は、わが心を紛らわすために。
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第四章「新米館主、初仕事」①
土曜日は、穏やかな春の晴天に恵まれた。
「新納流試心館(にいろりゅうししんかん)」の新米館主・御仮屋
睦(おかりや・むつみ)は、平日よりも朝寝坊をさせてもらってから、
「試心館」に顔をだした。待ってました!とばかりに大騒ぎするタダモ
トに「ごめん。今日は土曜日だから、朝寝坊したの」と謝ってから、いつ
もどおり屋敷内外の掃除、そしてタダモトとの“散歩”に出た。山の中を
「走る」ときは用心して、手は軍手、女にとって最も大事な(?)顔は
しっかり頬かむりをするようにしている。『堀跳び』は、まだ再挑戦して
いない。
もっとも今朝は、他の多くの飼犬と同様、タダモトには大人しく道路上
を歩いてもらった。「穴埋めは、ちゃんとするから」と言い聞かせた。
睦が散歩から帰ってきてみると、この家の主人(あるじ)・新納義彰
(にいろ・よしあき)は、二人の男性を縁側に上げて、なにやら楽しそう
に談笑している。一人は、もちろん紫尾警察署の巡査・大山隆志。
もう一人の男性が、睦の姿を見かけて、ぴょこんと立ち上がった。傍ら
には、かなり高価そうなテレビカメラが置かれている。
「どうも。おはようございます。はじめまして、でしょうか・・」
その口ぶりからすると、相手の方は睦のことを知っているらしい。
(そうか。防犯訓練の時、テレビカメラで撮影していた人だっけ・・・)
(つづく)
出勤前に、もう一回両親に電話してみます・・・。
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