第五章「御仮屋書店にて」⑧
一雨来るな~、と思った雲行き。
少しでも。
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第五章「御仮屋書店にて」⑧
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そりゃあ、国立理系コースでもトップの成績を誇る弟・瞬からすれば、短大
英語科に進学した姉・睦のことを、せめて「頭カラッポ」と負け惜しみを言う
しかないのだろう。
「聡君」
睦は、「坂道君」から「聡君」に呼び方を変えた。
「今、時間ある?ちょっと、私と遊んでいかない?」
その一言だけで、坂道は明らかに動揺している。
(あれれれ・・・、ゴメン、ごめん。「遊んでいかない」が、ヘンに誤解さ
れちゃったね・・・)
「バックをおろして」
坂道に指示してから、睦はレジカウンタ代わりにしている事務机へと向った。
引き出しを開けて、ある物を取り出した。
「いくよ」
坂道に一声かけて、ポイと投げた。
さすが、運動部所属。坂道は、さっと受け取った。
「ほい」
今度は坂道に投げ返すよう、促した。これも、坂道は、すっと睦が構えた手の
ところに、投げ返してきた。
「スーパーボールですね」
「そう、スーパーボール」
睦はそう言って、また坂道に投げた。
幸か不幸か。土曜午後、商店街の本屋に足を踏み入れる者は、極めて少ない。
(つづく)
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