第五章「御仮屋書店にて」⑨
昨日と同じく・・・・。
少しでも前進。
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第五章「御仮屋書店にて」⑨
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しばし続く、キャッチボール。
(ふ~~ん、察しがいいね)
実はさりげなく、睦は左右の腕を交互に使って、坂道に向ってボールを投げて
いる。坂道もそれを素早く察して、左右交互に投げ返してくる。しかも、睦の
胸元へ、ほとんど逸れずに返ってくる。
「なかなかやるね」
「はい、やっぱりバスケも、両手でドリブルが出来るよう練習しました」
「そうか、それなら“見せがい”があるってもんね」
睦はキャッチボールをいったん止めた。陽気は、もう初夏だ。ほんのり汗ばん
できた身体が心地よい。
「さて、お立会い。
ここにあります、なんのへんてつもない、スーパーボール。
ところが、愛情をこめて『しっかり帰ってきてね』と呼びかけて~と」
睦は胸の前で、スーパーボールをしっかり握って、祈る動作をしてみせた。
「聡君、ちょっとこっち来てね」
と、坂道を自分の横に来させた。そして、おもむろに
「行ってらっしゃ~い」
と、ボールをやや強く店内の床に投げた。ボールは勢いよく床で跳ねて、天井
に届かんばかりに跳ね上がる。床で四回バウンドした後、店内奥の壁に当たった。
そして、勢いはやや衰えながらも、また五回バウンドして、きっちり睦の手元に
戻ってきた。
「えっ!」
坂道が、思わず声を上げる。
「ね。まぐれだと思う?」
睦は、坂道を見やった。
(つづく)
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