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2013年2月 8日 (金)

自作小説『続 新米館主・御仮屋睦』(2/8)

 東武野田線柏駅。

 不思議なもので、車内って、格好の“読書タイム”であったりします。

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・薩摩の東夷さんの小説一覧ーFC2小説ー

  【お断り】 あくまでフィクションとして読んで頂くために書いたものであり、

  危険な運転行為を唆す意図は、一切ございません。m(__)m
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    水着を買いに(3)
  紫尾市から鹿児島市内までは、紫尾峠・入来峠と二つの山を越えて行く、意外に変化に富んだドライブコースだ。紫尾市街地から、まず渓谷沿いの山道を紫尾山のふところに分け入っていく。
 「わ~、なんか、ドライブって、ワクワクしちゃいます」
とは、祝子。
 「そう?でも、祝子ちゃんだって、お母さんの車で、あちこち出かけるんじゃない?」
 「はい。でも、それって、集会に出かけるとか、用事があって出かけることであって、ドライブとは違うような気がします・・・」
 「そうそう。やっぱり、免許を持たない高校生にとっては、クルマ、そしてドライブって、憧れだよな~」
というのは、弟・瞬。
「私・・・、学校帰りに、よく『ドライブに行かないか?』って、クルマから声掛けられるんです・・・」
「えっ、それは、ちょっと心配。まあ、祝子ちゃんは、そんなのに乗らないって、わかってるけどさ・・。そうだ!、瞬。アナタが、祝子ちゃんと一緒に学校から帰ってくればいい」
「いっ・・・・」
 バックミラーに映る、瞬の顔が赤くなるのが、丸わかりだ。
「あっ、お願いしようかな・・・。瞬くんって、成績優秀なんでしょ?。勉強のこととか、いろいろ訊きたいし・・・」
 (まったく、こういう時って、女の子の方が、肝が据わってるわよね~)
 スカイラインの車内では、そんな三人による他愛もない会話がされているのだが、そのスカイラインに後ろから猛然と迫って来る一台に、睦は気がついた。
 (やれやれ・・・。さっさと追い越してもらおう)
 クルマ、というのは、地方に暮す若者にとっては、“自由の翼”だ。そして、ある意味では、“個性”を表すシンボルだ。ハンドルを握ることが“力の誇示”である・・・と思い込む、若者もいる。今、そんなクルマが、迫ってきた。
 もちろん、睦はここで意地を張って、ドライブの楽しい気分を殺がれたくない。むしろ追い越しやすいように、速度を落としたつもりだったが・・・、相手が悪かった。
  相手は、対向車線にはみ出しながら、並走してきた。そして、おもむろに窓を開けて、こちらの車内を覗き込むようなしぐさを、してきやがった。運転席と助手席、
 (はあ・・・・、ハンドル握ると、とたんに強気になるオニイチャンね・・・)
 スカイラインの運転席には少々不釣り合いに小柄な睦と、高校生らしい二人の姿を認め、ますます強気になったのだろう。こちらを指さして、ゲラゲラ下卑た笑いを飛ばしてくる。おまけに、助手席の一人は、胸の前で手を山なりに動かして、睦の胸をからかう。
 「姉ちゃん、あんなヤツら、気にしないで、さっさと先に行かせちゃえ」
 「大丈夫、わかってる」
 ・・・・・ところがだ、こちらの車内の意志に反して、相手はしつこい。追い越すのをやめて、速度を落としたと思ったら、ピタリと後ろに付けてきやがる。いわゆる“あおり”だ。ぎりぎりまで、車間距離を詰めて、こちらの恐怖心を煽るつもりだ。ここは、大人しくウィンカーを出して、路側に車を停めて“降参”するべきなのだろうが・・・。
 「A lady and A boy, I hope safety first. But I want to teach justice to them.・・・
  安全運転を心がけているつもりだけれど、ちょっと相手に正義とやらを教えてやりたくなったわね・・・」
 「おい、姉ちゃん、無理しないでくれ・・・」
 「大丈夫。ハンドルを握っていれば、おっぱいとお尻の重さなんて誤差の範囲内ってこと、あのオニイサンたちに、わからせてやるわ」
 「私は、睦さんを信じます」
 「OK?、それでは~、So, at the beginning!」
 睦は、徐々に速度を落とし始める。相手だって、大事な愛車だ。そうそう傷をつけられないはずだ。度胸比べのいっとき、睦は法定速度の60キロで走行してやるつもりだ。やがて、後続の車がどんどん追い付いてきて、数珠つなぎになる。相手は、それに耐えられるわけはない。
 バックミラーで、相手との車間距離を確認しつつ、そろそろと減速する。
「私、教習所は最速で卒業したの。女の子だからって、運転が下手なんて、見くびってもらっちゃ困るわよね~」
 祝子と瞬を安心させるために、睦はしゃべる。
 やがて、運の良いことに、大型トラックが追いついてくるのが、見えた。
 (ふっ。勝ったわね・・・)
 誰も、大型トラックの前を走りたくないものだ。
 (さ。オニイチャン、どうする?追い越すなら、今のうちよ~)
 やがて、峠のトンネルにさしかかる。トンネル内で追い越しをするほどの度胸は、相手にないだろう。
  ・・・・・と思うと、相手の車はにわかに速度を上げた。そして、憎々しげにクラクションを鳴らすと、今度はさっさと睦らを追い抜いていった。
 「おっと。私たちは、後ろのトラックにも追い抜いてもらわないと。祝子ちゃん、大丈夫?、ごめん。怖かったよね」
 「いえ。さすが、睦さん、でした」
 「おいおい・・。姉ちゃん、事故ったら、どうするんだよ~。後ろに座っているオレが、一番危なかったってことだよな~、これって」

                               (つづく)

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