自作小説『続 新米館主・御仮屋睦』(11/05)
オジサンのエッチな妄想の部分だけでなく。
鹿児島県出水市の山あいの田んぼ。
梅雨明けから、本格的な暑さがやってくる一刻の間。
犬の散歩?ウォーキング?に出かけたくなる、夕暮れ時。
そんな風景を思い浮かべて頂ければ、幸い。
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駆けっこ(3)
「それでは!みんな。今夜の夕ご飯をおいしくいただくために、ちょっと走って、いい汗かこうか。次の道路まで、走ろう」
睦は、三人と一匹に提案する。武家屋敷街である御館町(おたてちょう)の裏手、谷間に水田が広がっている場所、二本のわだちが伸びる未舗装の農道を散歩中だ。江戸時代、農業用水を確保するため、人力で開削されたという「五万石溝(ごまんごくみぞ)」に沿って、道はうねうねと曲がりながら続いている。
「あっ、あの・・・」
祝子が躊躇う。“清楚すぎるお嬢様”スタイルでは、無理もない。
「あっ、祝子ちゃんは、ゆっくりでいいからね。瞬、しっかりエスコートしてあげて」
そして、睦は“年下のボーイ・フレンド”坂道聡に、満面の笑みを見せる。
「そして、聡くん。私と『駆けっこ』しようよ。私、一日一回は思いっきり身体動かしたいんだ。
ゴールまでは三百メートルくらいかな。ただ全力で走ればいいっていう距離でもないし、運動場と違ってデコボコだから気をつけてね」
身長百五十センチそこそこの睦が、百八十センチはあろう聡を見上げながら、誘う。
「・・・はい。睦さんと、一緒に走れるなら、喜んで」
それが単なる徒競走ではないこと、聡も即座に理解してくれたようだ。
「よしっ、それなら、まずは準備体操ね。丸くなって。膝の屈伸から」
農道の上で、四人と一匹は輪になって準備体操を始める。九州地方南部の田植えシーズンは、遅い。六月下旬の梅雨の最中に、一斉に田んぼに水が張られ、田植えが行われる。今は、稲が勢いよく伸びる時期だ。稲の様子を見に来る農家の軽トラックと出合うかもしれないが、まあ心配しなくてもよいだろう。
タダモトも、前足・後ろ足を交互に伸ばして、準備体操に参加する。そして、祝子。睦には想像し難いのだが、彼女は本当に生まれてこのかた、積極的に身体を動かした経験がないらしい。今「身体を動かす、喜び」を実感している。たかが準備体操であっても、一所懸命だ。その様子は、実は高校生の男子にとっては、刺激的だろう。長めの丈のスカートが、ふわっと風をはらむ。時には、ちらっと白い太ももが露わになり、男子二人をドキッとさせているのを、祝子本人は気づいていない。
(かわいいよね・・・)
「よ~しっ。次は二人一組で、柔軟。祝子ちゃん、私とね」
(祝子ちゃん、しっかり身体、伸ばそうね)
「さ~~て。Ladies and gentlemen!Are you ready?(皆々様、準備はよろしいか?)」
「Yes,ready(準備完了)」
「瞬は、しっかり祝子ちゃんをエスコートすること。そして、聡くん・・・」
聡を、自分の横に手招きする。
「Get,ready,OK?.よ~し。3・・、2・・、1・・、Start!」
睦は、さっと走り出す代わりに、横っ飛びに飛んだ。
「油断しちゃ、だめっ!」
思いっきり聡に体当たりだ。倍ほどは体重を持っていそうな聡に対しては、先手を取るしかない。 ボンッ! 渾身の当て身が、上手く相手をよろめかせる。
「お先っ」
聡の態勢が崩れている隙に、駆け出す。普段からフルカップのブラを着用して、胸の揺れを抑えているのだが、もちろん、いざ走りだすと・・・
(うっ、重い~)
となってしまう。おまけに睦の走り方は、腕の振りが前後ではなく、横に振る、典型的な“女の子走り”だ。それでも、日中の机仕事から解放された身体が、大喜びしているのを感じる。先導役のタダモトの後を追う。
「睦さん、反則っ」
さすが、スポーツマン聡だ。態勢を立て直して、すぐさま追いついてきた。
「油断大敵でしょ」
「違う、Foul!,Your nice body's(そのナイス・バディが、反則!)」
「もう・・・」
とはいえ、「一対一で正対して行うことのみならず」というのが、新納流の教えだ。走りながら仕掛け合う、というこもありかな・・と思う。
「Half of the world is a woman!(世界の半分は、女よ)。
聡くん、もういっちょ!」
再び、横っ飛びに飛んで、聡に体当たりを見舞う。ところが、よける、とみた聡が、さっと腰を低い姿勢にして、睦の肩からの当て身を、二の腕で受け止めた。 パンッ お互い身体をぶつけ合ったような状態のまま、走り続ける。農道の真ん中、生えた草を踏みしめながら、駆ける。 バッサ、サッ、サッ・・・
「よけないなんて、感心~」
「そりゃあ・・・、Avoiding is rude(避けることは、失礼でしょ).」
現役バスケ部員として、腰を低くした姿勢での走りは得意なのだろう。
「じゃあ、このまま行く?」
「はい。仰せのままに」
「よ~し」
ぶつけ合った箇所から、聡の息遣いが伝わってくるのが、ちょっぴり面映ゆい。
(つづく)
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